「ひとと素材をつなぐ」をテーマに、2020年から私的素材スタジオ「Kion Studio ANNEX」を尾州の大手メーカー「宮田毛織工業」の構内に設立。稀温さんが出会う素材は、尾州から海外まで様々。集めたデッドストック素材が、スタジオ中に積み上げられて、稀温さんの好きなモノが集まります。「工場が廃棄する素材でも、かわいいものがたくさんあるんだよね。見方を変えたり、使い方を工夫すればまだまだ使える。そんな、捨てられる素材を集めて、使う人へつなぎたい」と宣言したことを有言実行している稀温さん。
名古屋から、尾州織物の産地一宮市に拠点を移して、古い繊維協会ビル解体の危機を受け、2014年に「アール・マテリアル・プロジェクト」(*1)を開催し人気を博す。2016年から株式会社リテイルを設立し、そのレトロな繊維協会ビルの中で常設のデッドストック・ファッション素材のお店を経営し、解体寸前だったビルを救ってきました。最初の「リテイル」(*2) は一宮駅すぐで、多くのお客様で賑わいますが、現在スタジオのある宮田毛織工業さんは、田んぼの中、市街地から離れたのどかなエリア。しかし、稀温さんの救済した貴重なお宝素材を求めて、各地からみなさんが訪れています!
肩書きは「コーディネーター」。衣食住ジャンル問わず様々なコトや人を感性でつなぐ「ちょうどいい場づくり」の達人。そんな稀温さんにお話を伺いました。
guest
稀温さん(Kion Studio代表 / 株式会社リテイル 発起人)
コーディネーター。一宮の繊維協会ビル解体の危機を受け、2016年に株式会社リテイルとしてビル運営と共に尾州生地デッドストック販売店を常設。2020年「宮田毛織工業」内にKion Studio ANNEXを開設。デッドストック素材や、アーカイブから新生した素材や、作家/デザイナーの素材&製品も扱う。
interview ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 聞き手:原田さとみ 2021年 9月
稀温)肩書はコーディネーターです。頭に何もつかないただのコーディネーターにしています。
原田)それは今携わっている素材のコーディネートだけではおさまらないということですね
稀温)はい、衣食住すべてをやるコーディネーターとお伝えしています。
何を作るか決まる前段階から、課題の解決やいいものがあったときにそれを調整し、ちょうどいい場所を作ったり、ちょうどいい関係性を作ったり、ちょうどいいところに届けたいというコーディネーターです。
原田)ちょうどよくするためにここでアトリエを構えてたくさんの生地を従えて稀温さんの息のかかった生地が並んでいいますね。
昔、私のお店で稀温さんとお話しした際に「繊維工場で使われなく残っている生地がとても素敵で、でも廃棄されちゃうから救済したくて、その生地を欲しい人につなげることを事業にするのだ」と言っていたのが今から20年くらい前(2001年)でしたか
稀温)実際にはさくらアパートメント(*3) でもすでに「アール・マテリアル・プロジェクト」(*1) はやっていたけれど廃材を活用することは、実は35年前(1986年)くらいからやっていることです。
当時、私はモード学園の学生で、友達のガールズバンドの衣装を作ってと頼まれたのですが、私も友達もお金がなくて・・・。で、実家の近所にスカートの縫製工場があり、百貨店に並ぶ最新流行の製品を作っていました。
その裁断ゴミが毎日出ているのが外から見えていて、工場の方に譲ってもらって、その布をふんだんに使って、5人分の服を作って着せていました。廃材を何とかしようではなく、そこにかわいいもの、面白い素材があるからそれを使いたい、と思っていましたね。
原田)それはまさに廃棄素材の再利用で、アップサイクルで、社会の課題解決の1つですね。稀温さんにとって捨てられる生地は、ゴミではなく宝だったのですね。
稀温)ゴミのすべてを何とかするのがリサイクルだけど、「アール・マテリアル・プロジェクト」を始めたときから「リサイクル」とは言っていないです。素敵なゴミがあるから使っているだけなので。
原田)そういった素材(マテリアル)に注目したのは誰よりも早かったかなと思います。
それはファッション大好き、モノづくり大好きであると同時に、社会の穴を埋めたいというか、凸凹を埋めたいという思いも強かったのかなと思いました。
それで拠点を尾州の産地である一宮に移して、もう20年ですね。
拠点を一宮に移したきっかけは?
稀温)独りになってしまったおばあちゃんと暮らそうと思ったことと、名古屋時代は夜中の2時から打ち合わせに来る人もいたような働き方だったのでそれを緩めようと。更にインターネットの普及によってどこにいても仕事できる状況になってきていましたから。現在の一宮の自宅事務所も、昔は繊維業で小さな糸工場でした。
繊維に深く関わりだしたのは8年前くらい、2013年ごろからですが、その前から繊維会社の方とは知り合っていたけれど、ホームページを作る仕事だったりとかで、布を実際に扱う仕事はしていなかったですね。
原田)スカート工場で見つけた廃棄素材でキャーッとなる人が、もっとキャーとなる素材のある場所につながるまでにはどのような経緯がありましたか?
稀温)「リテイル」(*1) 以前にデザイン仕事を依頼された繊維会社さんがたまたま3社くらい連続してあり、工場があるなら必ずなんらか見本、余り、面白いゴミが出るはず。ホームページを作るなら会社を知らなくてはなりませんから、工場を全て見せてと言いました。
だけどその時に見た布は、紳士服の白や黒、モノトーンばかりでした。社長さんたちと知り合う中で「組合事務所の移転で使わなくなるからこのビルを壊す話が出てるけど、何かに活用できないか?」誰が見てもそれを壊したらもったいないでしょというビルで、駅からも近い。繊維の組合さんのビルなので、そこに繊維を集めてマーケットイベントをしたらどうかと。普通は卸売りのみでパリや東京へ直行してしまう上質な生地をみんなもきっと見たいはず。その前にすでに「アール・マテリアル・プロジェクト」として活動していたベースがあったので、まず私の個人主催でやってみよう、ということがきっかけですね。
原田)「アール・マテリアル・プロジェクト」(*1) はとても話題になり人気でしたよね。期間限定の催事でしたが、たくさんの人が集ってきましたね。
稀温)「1日だけの素材マーケット」と謳って半年ごとに開催を2年間やっていました。1回目からパルコやラシック、東急ハンズ、百貨店の方などが来てくれて。さとみさんもきてくれましたね。最初からヒットしたのはその前からやっていた「さくらアパートメント」や「クリエーターズマーケット」など、関係人口が多かったからだと思います。2013年までの「アール・マテリアル・プロジェクト」も、人を集める力のある若手の名古屋の人たちと一緒にやっていたので、それぞれがみんなを呼んでくれたのかなと思います。
原田)地元の地場産業の工場で、世界に名だたる有名ブランドの生地が作られていたことに驚きましたね。こんな美しい生地が地元にあるなんて、と皆さん意識改革をしましたね。
稀温)実は始めるまでは私も知らなかったです。産地がこんなに上質でかわいいものを作っているとは。これは人が来る、と確信できました。イベントをして、いろんな人が来れば、このビルを何とかしてやろうと思う人が1人くらい出てくるのではないかと思っていました。こういうビルがあることや、廃棄される素材があることを伝えなければ、もったいないなと思いながらも、壊されて終わりですよね。それを止めるには、人とお金を動かして見せないと。繊維屋さんたちは商売なのでニーズがあることを実際に見てもらえれば、動いて下さったり、ビルを壊すのをやめることを考える機会になるかと。
原田)そして、今こちら宮田毛織工業さんの一角に、稀温さんのスタジオがあります。こちらに居を構えたその経緯もまたコーディネーターとしての手腕ですね。
稀温)尾州のもの、他産地や海外素材も、主としてデッドストックを集めています。「リテイル」だけでは入り切らないし会社にしてみんなでやりましょうとなっているので、コロナもあって、自分勝手に即断で買い付けたり収集しようと。素材を救う、素材に触れてもらう場所を増やしたということです。
原田)良きタイミングで素敵な場所に出会いましたね。
稀温)若いころ読んだものに「人は大切な時、必要な時に誰かに出会う」と書いてあって。少なくとも自分には起きると信じています。
私と素材に出会う学生さんも、つくる方も機屋さんも、それぞれがその方の好ましいペースで、幸せに上がっていくとか、継続できる状態を作るお手伝いをしたいと思います。
原田)建物や人をつなぐことも稀温さんの言う「コーディネーター」の仕事ですね。
大きな反物から小さな端切れまでを愛しているからできる仕事。その端切れをコーディネートするその心は
稀温)こんな小さな生地でもポーチにパッチワークしてもらったり、洋服の袖など部分使いにできます。現物の生地が少しあれば、それを参考に同じ布をまた復活させることもできます。
原田)端切れでも立派な設計図ということですね。
稀温)もともと見本だった生地も売っているし、新しい生地も作っています。
見本の中にとても美しいものもあるわけですよ。レストランのメニューでも、研究している段階では実際より良い材料使っている場合もありますよね。
原田)日の目を浴びていない生地もあるということですか
稀温)そうですね。もちろん活躍してきた見本もあって、量産の産地なので、売る布がなくなれば見本の役割は終わりだけれど、私たちは創る人をたくさん知っているので、小さくても魅力的な素材なら、ハンドバッグなど小物やアクセサリーなどの創作にはじゅうぶん使えます。人と素材をつなげるのが私の役割ですから、小さな端切れでも使い手が見えているのです。
原田)これから稀温さんが使命としていることは何ですか
稀温)生地をさわれる場所、そこに関われる人を増やしてあげることでしょうか。例えば、見たことのないハンドバッグは欲しくならなりませんよね。素材も作って見せなければ流通しない。仕事だって知らない仕事には就けません。繊維という産業の周りで色んな働き方がある。モノは作らないが繋ぐ、という私のような仕事の仕方もできる。私の跡を継いで、人と素材をつなぐ人も入ってきてほしいと思います。
原田)育成が次の目標ですね。生地から服を作ろうとする若い世代がいるということが嬉しいですね。この先どうでしょうか。自分で生地を買って自分でリメイク、モノづくりをしていく人が途絶えることはないと思いますか
稀温)途絶えることはないと思います。洋服でもこんなにあるのに、作ること自体を楽しみたい方もいる。ワークショップをやっても結構人気があります。自分の欲しいものを創ることをしたい人は多いはず。
原田)昔に比べてミシンを扱えない方が増えていると言いますが
稀温)そんなことはないですね。ミシンは昨年、世界中で通常年の2倍近く売れたそうです。縫わなくても「巻いて着る文化」も世界中にあるから、良い布をショールのように巻いて着てほしいです。まずは布を触って生地の良し悪しを吟味できるようになってほしい。そうでないとどんな服でもいいや、何を着ていてもいいやって人ばかりになったら社会が悪くなると思います。
原田)まさにここはファストファッションの対極ですね。「何でも安く買える。買っていらなくなったら捨てればいい」という考えではなく、素材から吟味して選び、自分らしく製作し、長く丁寧に使って、また人から人に渡っていく、スローを大事にした、エシカル・ファッションですね。
稀温)安いお店に行ってもいいけど、いいものを見たことがないと選べないです。質=良し悪しがわかる人が増えたほうが社会的も良くなると思います。
原田)若い方々には、ここにきて稀温さんとお話して生地を見てほしいですね。
稀温)私のところ以外でも、産地にお店や場が増えていますから、多くのひとに良いものに触れてみてほしいと思います。
原田)そのためには地場産業「尾州」という地域性はすごく貴重ですね。
稀温)そうですね。尾州とか名古屋でもそうですがいい意味で奥ゆかしいと思います。100あるものを100ありますと伝えられない、知らせることが苦手なので、デザイナーやスタイリスト、私たちの力を使ってほしい。それをやりたい人が産地にもっと入てきて、いいものや尾州をわかって買いたいと思う人がもっと増えて欲しいです。
私みたいに好きなモノだけを集めて好きなモノだけPRするような人がいてもいいと思います。
*1、アール・マテリアル・プロジェクト
魅力的なデッドストック素材や、新進デザイナーの創作物すべてを「マテリアル」と考え、
リファインド、リクリエーション、リレーションの3つのRをコンセプトに2002年ごろから名古屋市内で断続的に開催。2014年からは一宮で尾州産地の繊維素材をメインに扱う。
「あたらしくないものからも、あたらしい価値を発見できる。」
*2、リテイル
1993年築の尾西繊維協会ビル解体の危機を受け、RRRマテリアルのイベント開催を経て、
2016年に繊維企業の協力を得て法人化。素材販売の直営ショップと、繊維やデザインに関わるテナント10軒が入居。「せんいのまちで、せんいのビル。」
*3、 さくらアパートメント
名古屋中心地の旅館&ビジネスホテル「さくらや」を活用したアトリエ、ショップの集合体。大小40室の広間や客室に若手や企業のアンテナショップが活動した。(2001年~2007年3月)
「アップサイクル」インタビュー完成のお披露目イベントに
「Kion Studio」稀温さんもトーク!
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エシカル&サスティナブル・ファッションショー/ トーク@オンライン
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2022年 1月 22日(土)13:00~16:30(オンライン配信)
オンライン(ファッションショー/トーク/ 中継)
参加:YouTube配信 https://youtu.be/Sj2a3_u_N4M
1/22イベント詳細はこちら!
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interviewer
原田さとみ
(エシカル・ペネロープ株式会社 代表 / 一般社団法人 日本フェアトレード・フォーラム代表理事 / NPO法人フェアトレード名古屋ネットワーク(FTNN)理事 / 一般社団法人 日本エシカル推進協議会理事 / JICA中部オフィシャルサポーター)
”思いやり”のエシカル理念・フェアトレード普及推進イベント、フェアトレード&エシカル・ファッションショーの企画運営。 フェアトレード商品やエシカル消費・エシカルライフの推進事業を行う。2015年名古屋市をフェアトレードタウン認定都市とする。
movie
松井陽介(pen&wine Paw代表)
writer
梅澤ルミ子 (結日代表 / NPO法人フェアトレード名古屋ネットワーク(FTNN)理事)
エステティシャンとしての経験を積み、2018年『結日』起業。生産環境、製造環境、使い終わったあとまでを考えた石鹸等の日常生活に馴染みやすい化粧品・洗剤等の商品展開をスタート。主にアジアを中心に生産者に寄り添った現地の素材を活かし原料化し、美容界にもサスティナブルな商品の導入を目指している。
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