綿花伝来の地ともいわれる愛知県三河地域にある蒲郡市は三河湾を望む風光明媚な街。こちらに天然繊維の織物に特化した繊維総合商社「森菊株式会社」さんがあります。2018年には、環境への負荷が少ないサスティナブルマテリエルの生地ブランド「NATURE & SONS®」をスタートし、地域の伝統的な織物である三河木綿を扱うとともに、海外にも積極的に展開をし、歴史や伝統を大切に守りながら、広く未来につなげるものづくりに取り組んでいらっしゃいます。
そんな森菊さんで社員さんによる地域に根ざした楽しそうな企画が展開されているということで、三河湾の潮風にも誘われて行ってまいりました。「もりきくマルシェ」「Tシャツ回収」、廃棄される生地を救う「テキスタイル・レスキュー」など、アップサイクルなアクションです。一体どんな方が企画運営されているのかなと伺いましたら、なんと!入社2年目のかわいらしい菜那さんがニコニコ笑顔でお出迎えくださいました。若く純粋な感性で、柔らかく軽やかに楽しそうに新事業に挑戦する菜那さんの真っ直ぐな思いに触れ、とても気持ちの良い取材となりました。
「もったいない」と感じた菜那さんのピュアな心が動き、「生地を救済する」熱い活動が始まったことで、同僚の皆さんがそれを支えて、企業の新しい扉が開いたのではないでしょうか。そんな若い社員の声に会社が耳を傾けて、共にアクションされたこと尊敬します。菜那さんを中心にこの企画を継続し育てて行くことには、計り知れない可能性があります。アパレル繊維業界に一石を投じていると思います。業界では当たり前と思われていたことでも、おかしいと思ったら、おかしいと言い、古い慣習を変えることを恐れてはいけない。菜那さんは未来に大切なことを会社と地域を巻き込んで実践してくれています。若い感性、ブレない力は凄いです。「少しずつでも、この繊維業界をはじめ、ものがたくさん作られすぎているこの現状を変えていけたらと思っています。」と頑張る菜那さんをみんなで応援しましょう。
Guest
杉山菜那さん(森菊株式会社 テキスタイル第1部第1課)
学生の頃から服が好きで、大学進学とともに服屋でアルバイトを始める。大学在学中にジーンズソムリエを取得。それをきっかけに繊維業界に興味を持ち、2020年3月に森菊株式会社に入社。
interview ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 聞き手:原田さとみ 2021年 11月
原田) 森菊さんで行われているアップサイクルなプロジェクト。それをご担当をされている杉山さんは、入社2年目ということですね。
杉山) はい! 私と同期のメンバーと上司を含めて、色々と新しいことを巻き込んでやっています。
原田) その新しいことというのが、「テキスタイル・レスキュー」や「Tシャツ回収」そして人気の「もりきくマルシェ」ですね。 この事業内容をひとつずつ教えてください。
杉山) はい。まず「もりきくマルシェ」は、地域の皆さんを巻き込んだイベントになります。年に2回の予定です。キッチンカーを呼んだり、ワークショップや生地の販売をしたりとお祭りみたいな楽しいイベントになっております。
原田) インスタなどを拝見させていただいておりますが、とても盛り上がっていますね。 美味しいものの出店もあり、地域の方々にも楽しんでいただいているんですね。
杉山) 飲食ブースもオーガニックのものを使っているお店や、使い捨てプラスチック容器をできるだけ使用しないキッチンカーなど、サスティナブルを意識している仲間に来てもらっています。
原田) そしてマルシェの主役は、森菊さんの倉庫に眠っている生地ですね。
杉山) 自社のハギレやB級布などのまだまだ使っていただけそうなものを販売しています。
今は色々なところでマルシェがありますが、この「もりきくマルシェ」でしか買えないものや、得られない体験をしていただけるかなと思っています。
原田)ワークショップではどんな体験ができるのですか。
杉山)1回目ではミツロウラップのワークショップを行いました。森菊は生地屋なのでハギレが出てしまい、それが、もったいないなと思い、自社のハギレを使用してミツロウラップを作りました。第2回では、西尾の抹茶を使った抹茶染めワークショップを行いました。西尾の抹茶工場で廃棄されてしまう抹茶を染料として救済し、生地を染めています。製造時に、粉末状の抹茶は細かいので床にふわっと落ちてしまい、何キロもの量が廃棄されています。今までは捨てられていた抹茶の粉を少し貰ってきて生地を染めています。
原田) 実際に、会社の商品にも抹茶染めの生地というものがあるんですか。実験をされている様子がSNSでも発信されていましたね。
杉山)あれはですね、「もりきくマルシェ」で一般の方に体験してもらう「抹茶染めワークショップ」のための実験なんです。抹茶100%だと色落ちが激しかったりと問題点があるので、それを染工所や加工所さんと一緒に相談しながら改善しました。
原田) マルシェのお客様を喜ばせるために手間暇かけて実験したんですね。
杉山) ワークショップで染めた際に、きれいな色が出て、色落ちしないように。
原田) やはりプロがマルシェやると、こだわりが違いますね!
杉山) 他に「もりきくマルシェ」では「Tシャツ回収」を行なっています。
いらなくなった服やTシャツなどを回収して、その服を綿状に戻して糸を作り直して、弊社で生地にして縫製までして、新しい製品に生まれ変わらせています。その循環する仕組みを一般のお客様にも知ってもらいたくて、中身を全部見られる参加型のリサイクル・プロジェクトを作りました。
原田) 1回のマルシェでは終わらないということですね。続きがありますよ!というマルシェで、次また来なきゃ!ってなる。
杉山) そうですね。Tシャツを一枚持ってきていただくと、次のマルシェではトートバックになって戻ってくるという…
原田) その途中の過程をしっかり見せていくというのは魅力ですね。
杉山)これまではあまり見ていただく機会がなかったので、一般の方々には見えない部分だったと思います。それを見ていただきたくて始めました。例えば、服の回収ボックスが最近ではよくお店などに置いてありますが、私はそれを見て服を入れたことがなくて、なぜかというとその先があまり見えないので、自分事にしづらいというのがあって、この回収ボックスに入れたら「本当に人のためになるのだろうか?」と少し疑問に思っている部分が個人的にあり、それを楽しみながら入れる服の回収ができたらいいなと思って、今回、始めました。
原田) 杉山さんの活動は地域に根差していますよね。
杉山) 「もりきくマルシェ」をやろうと思ったきっかけでもありますが、今までずっとB to Bの企業相手のビジネスだったので、一般の方と関わる機会がほとんどなくて、この地域の方もここがどんな会社なのかを知らない方ばかりだったと思いますが、イベントをやることで知ってもらえたらいいなというのがありました。2回目をやって、1回目に来てくれた方がまた来てくれたりとか、楽しみにしてくれている方もいましたし、近くの会社さんだったり、住んでいる方が来てくれて「ここって生地屋さんだったんだ」と言われることが結構あります。
原田)続いて、「テキスタイル・レスキュー」について教えてください。
杉山) きっかけは入社1年目の夏、会社の大掃除のタイミングで、不要となった生地を全部集める機会があり、その時に並べられた生地の量がすごく多くて、圧倒されて、上司に「これどうするんですか?」と聞いたら、安く売られるものもあるけど、ほとんどが廃棄すると聞き、個人的にそれは「嫌だな」と。どうにかしたいと思っていました。そして、ようやく2年目になり「テキスタイル・レスキュー」という企画を打ち出しました。生地屋は色々な理由で廃棄されてしまう生地があります。それを捨てるのはもったいないということで。個人や、小規模にビジネスをされている方に生地を販売したりして、なるべく捨てる生地を減らそうという企画です。
テキスタイルレスキューをSNSで発信し始めて、思っていた以上にたくさんの方に反響をいただいています。岡崎市にあるマイクロホテルでは、ユニフォームを製作させていただきました。その制服は、抹茶染めで製作することとなり、色落ちなどリスクもありましたが、プロジェクトを理解してくださるお客様でしたので、順調に進み、更にお茶染めは大学生と一緒に行いました。
原田) 会社では廃棄された生地ですが、杉山さんの企画でレスキューされ製品化されたということですね。
杉山) そうですね(笑)
原田) この活動を始めて、社内への影響はありましたか。
杉山) やりたいことをやっていこうというか、会社的にも新しいことをやりたいという思いに、味方してくれていますので、とりあえずやってみなさいという感じです。Tシャツ回収では、最初、少量で小規模でできるのか、など様々な意見ももらいながらでしたが、マルシェでの集客もやってみないとわからない部分がありましたので、先ずはやってみました。結果、関連会社さんに関心を持っていただき話のネタになったり、新しいビジネスにつながったり、同業の繊維業界の方々にも喜んでもらえてるとは思います。
原田) やはり、会社が外に開いて、様々な事業者や団体と協働コラボすること、大事ですね。利益だけを追求していく時代ではなくなったということで、すごく新しいことをやっていますね。その始まりとなったのが、森菊さんで2018年に設立したブランド「NATURE&SONS®」になるのでしょうか。
杉山) 「NATURE&SONS®」は、サスティナブルなテキスタイル生地を集約した、環境への負荷が少ない生地・マテリアルに特化したブランドです。2018年は、私はまだ大学生で、入社前から会社がこういうブランドを作っていたので、これがなかったら、私が入社して今のような活動には繋がらなかったかもしれないです。
原田) 社員の皆さんからもお褒めの言葉をいただいているのではないでしょうか
杉山) 社長も含めて、やはり「在庫にしたくない、作ったものを無駄にしたくない」と思っていたようなので、それをうまく活用できてるというのは褒めてくれているという感じですね。
原田) 同時にどんな課題がありますか。
杉山) やはり、今まで廃棄されていたということは、うまくお金に変えることができなかったから廃棄されていたわけなので・・・、それをどうするのか、今もその点はまだ解決できていないですが。
原田) 手間暇かかって、今はまだ採算が合わないかもしれないですが、きっと採算が合ってくる日が来るんじゃないかなと思います。お金の採算だけではなくて、社会貢献度の採算。大事ですよね。
この先、目指すところはどんなことでしょうか。
杉山) そうですね、会社の規模はあまり大きくないので大きなところを目指すというよりも、小さなことからでも少しずつでも、この繊維業界をはじめ、ものがたくさん作られすぎているこの現状を少しでも変えていけたらなと思っています。
原田) 素晴らしいです。売れ残った生地は廃棄することが習慣になっていて、誰も疑問にしていなかった。けれども、本当は誰もが、もったいないな、できることなら捨てたくないなと思っていたのではないでしょうか。そして時代は、変化してきています。もう廃棄することが認められなくなってきました。捨てることが当たり前じゃなくなります。サスティナブル・エシカルファッション、ファッションロス削減ですよ。杉山さん、良くぞアクションを起こしてくださいました。応援します。期待しています。お話ありがとうございました。
「アップサイクル」インタビュー完成のお披露目イベントに
「NATURE&SONS®/森菊」杉山さんもトーク!
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エシカル&サスティナブル・ファッションショー/ トーク@オンライン
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2022年 1月 22日(土)
オンライン配信(ファッションショー/トーク/ 中継)13:00〜16:30
参加:YouTube配信 https://youtu.be/Sj2a3_u_N4M
1/22イベント詳細はこちら!
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interviewer
原田さとみ
(エシカル・ペネロープ株式会社 代表 / 一般社団法人 日本フェアトレード・フォーラム代表理事 / NPO法人フェアトレード名古屋ネットワーク(FTNN)理事 / 一般社団法人 日本エシカル推進協議会理事 / JICA中部オフィシャルサポーター)
”思いやり”のエシカル理念・フェアトレード普及推進イベント、フェアトレード&エシカル・ファッションショーの企画運営。 フェアトレード商品やエシカル消費・エシカルライフの推進事業を行う。2015年名古屋市をフェアトレードタウン認定都市とする。
movie
松井陽介(pen&wine Paw代表)
writer
梅澤ルミ子 (結日代表 / NPO法人フェアトレード名古屋ネットワーク(FTNN)理事)
エステティシャンとしての経験を積み、2018年『結日』起業。生産環境、製造環境、使い終わったあとまでを考えた石鹸等の日常生活に馴染みやすい化粧品・洗剤等の商品展開をスタート。主にアジアを中心に生産者に寄り添った現地の素材を活かし原料化し、美容界にもサスティナブルな商品の導入を目指している。
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