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「retricot(リトリコ)/ 艶金」子池美帆さん

染色工場内にある、使われずに廃棄予定の生地を再利用し、衣料品へよみがえらせるアップサイクル・ブランド「retricot(リトリコ)」のお話を伺いに、岐阜県大垣市にあります艶金さんを訪問。初雪ちらつく12月の大垣は冷え込んでいましたが、気持ちが温かくなるお話に心ぽかぽかでした。墨社長さんの未来を見据えた持続可能な活動理念は、ファッション業界の大量生産・大量消費・過剰生産に対して警鐘を鳴らします。持続不能な社会を循環型に戻す仕組み、情報の開示など。ファッション衣料業界に負の歴史を残さぬよう、逞しく優しさ溢れるアクションを社員のみなさんと地域に展開されていらっしゃいます。


ファッション衣料の染色整理加工を生業として創業し132年の「株式会社 艶金」さんは、田んぼと川に囲まれた自然いっぱいののどかな環境。この自然の力を生かして、染色加工のお仕事をされています。アパレル業界は環境への影響と深い繋がりがあり、中でも、生地に色を付ける染色工程がCO₂排出のかなりの割合を占めています。その染色の仕事をする艶金さんは、CO₂の排出を減らそうとバイオマスボイラーを導入し、カーボンニュートラルを達成し、CO₂排出の削減に成功しました。ところが、アパレル業界は洋服の売れ残り問題も深刻です。コストがかかって作られた洋服も、供給量の半分強も売れ残り、廃棄処分されています。

そこで、会社にある在庫の生地のことを思い出したそうです。会社としてCO₂を減らしているのに、これらの在庫を焼却処分してしまっては意味がない。こだわりを持って作り上げたのに、使われずに処分してしまうのはもったいない。そこで、在庫になっている生地を使用し、新たな可能性を見出そうとアップサイクル・ブランド「retricot(リトリコ)」が生まれました。昨年2020年から始まった新たな挑戦です。この若いブランドを企画運営するのは入社4年目の若い美帆さん。柔らかい感性で新しい未来を創ってくださっています。


そして墨社長が最後におっしゃいました「綿花の栽培では長い時間と手間、たくさんの水を使用し糸から生地が作られています。人間の都合で作り過ぎない。これからは地球が許してくれないです。」と。

   

子池美帆さん (「ritricotリトリコ」株式会社 艶金)

株式会社 艶金入社4年目。入社後3年間は検査業務を担当。染め上がった生地を検査する部

署で、色が正しく染まっているか、色ムラが発生していないかなど染めに関する品質チェックをする業務を経て、2021年1月、retricot(リトリコ)の担当となり、ブランドのコンセプト作りや服のデザイン、展開カラーの決定など企画業務に携わる。ネットショップの運営やSNSの発信・管理、ワークショップの運営等も行う。



interviewーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 聞き手:原田さとみ 2021年 12月

原田)岐阜県大垣市にある艶金さんの本社工場にお邪魔しております。こちらの工場は、自然いっぱいの中、とても気持ちのいい所にあるのですね。この環境も艶金さんのお仕事と関係あるのでしょうか。まずは艶金さんのお仕事について教えてください。


子池)艶金は洋服生地の染色加工をしています。創業は1889年に愛知県一宮市でスタートし、今年で132年になります。染色は水を大量に使うことが特徴ですが、ここ岐阜県大垣市は地下水が豊富で、染色工場に最適であると判断して、1971年にスタートしました。現在では、染色加工以外にも主に自動車塗装用産業ロボットの汚れ防止の目的で装着する布カバーの企画・製造・販売や、ファッション衣料向け生地の企画・製造・販売も行っております。


また、当社には「のこり染」という食品や植物を加工したあとに出るのこりを原料にした染色技術があります。この「のこり染」で染めた生地を使った布雑貨の企画・製造・販売を自社ブランド「KURAKIN(クラキン)」として展開しています。

そして、当社の新事業として本日ご紹介する自社のアパレルブランド「リトリコ」を展開しています。

原田)長い歴史の中で、時代の流れを据えて2020年に始まったアップサイクル事業。「リトリコ」とはどんなブランドですか。


子池)「リトリコ」は、染色工場内にある、使われずに廃棄される予定の生地を再利用し、衣料品へアップサイクルするブランドです。「リトリコ」のブランド名の由来は、カットソーの一種を意味する「tricot」に再生を意味する「RE」を組み合わせた造語です。大切にしていることは「着心地の良さとサステナビリティ」です。


2020年からコロナ禍になりライフスタイルが変わり、家で過ごす事が多くなったと思います。「家事をしながら会社員」「家事をしながら交流会」そんな新しい日常に沿った快適な日常着を届けたいと思っております。ターゲット層は20代から40代のおうちリラックスしたい女性です。ただ、女性だけでなく、男性も着られるようなジェンダーレスを意識したアイテムもございます。アイテム展開は春夏物で8種類、秋冬物で7種類です。

原田)「リトリコ」の生まれたきっかけを教えてください。


子池)アパレル業界は綿栽培から縫製まで、洋服の生産時の環境負荷が大きいと指摘されていますが、その中でも当社が担当している染色は、エネルギー使用量が非常に大きいので、二酸化炭素の排出量も多いです。当社はバイオマスボイラーを導入したり、省エネルギー型染色機に更新したりして、二酸化炭素排出量の少ない工場を目指しています。


一方で、洋服の売れ残り問題も深刻であることをニュースで知りました。売れ残った洋服が焼却処分されれば、さらに二酸化炭素が排出されます。そして消費者も安く気軽に購入できる半面、あまり着ることなく洋服を捨ててしまうことにも罪悪感を感じなくなっていると思います。


そこでふと、自分の会社にある動かない在庫生地のことを思い出しました。これらの生地も、焼却処分をすることがあるということも聞きました。生地の段階でも焼却すれば、二酸化炭素を排出してしまいます。もとより、せっかく作った生地を使わずに捨ててしまってはもったいないですし、意味がないと思います。何とか使いきる方法はないかと考え、そういった在庫生地をアップサイクルして、洋服によみがえらせるブランドの「リトリコ」を立ち上げることにしました。

原田)これから環境のために「リトリコ」でできることを教えてください。

子池)私たちができる行動はわずかですが、洋服を作る側も消費する側も、現状では地球温暖化に自ら加担しているかもしれないということを知ってほしいと思います。洋服と温暖化と、全然関係ないと思っていたという感想をよく耳にします。そうではないということを納得してくれて、洋服を丁寧に作って、着続けることがかっこいいと思えるようにしていきたいです。購入してくださった方に「環境にやさしい服」だということを、是非実感して頂きたいです。


また、商品の販売方式ですが、注文が入ってから製造をする受注生産方式にしております。売れ残った時の廃棄を無くすため、余剰な在庫を持たない事を前提としています。

その為、あらかじめ在庫を持つ必要がある店舗販売ではなく、受注生産の可能なネット販売を中心に展開しています。


新たに考えているのは、繊維業界以外の廃棄材料についてです。廃棄材料が発生しているのは何も繊維業界だけではないと思います。他業界、他業種においても同様の問題を抱えていると思います。他業界の廃棄材料を「リトリコ」でアップサイクルする事にもチャレンジ出来たらと思っています。


原田)会社全体でも環境に配慮のある行動を取られていらっしゃいますね。

子池)はい。当社の環境への取り組みとしては、大きく5つの取り組みがあります。


まず、バイオマスボイラーです。昭和62年という早い時期に当社はバイオマスボイラーへの燃料転換を行い、カーボンニュートラルを実現しています。カーボンニュートラルというのは、二酸化炭素を吸収し続けた木材を燃やしているため、二酸化炭素が排出されても、トータル的に増やさない仕組みのことです。


2つ目は、省エネルギー型染色機への設備更新です。

染色は大量の水の中に生地を投入し、60~135℃まで温度を上昇させ、数時間かけて行うため、莫大なエネルギーを必要とします。過去から省エネルギータイプの染色機の導入を進めていますが、特に近年では染色機メーカーとの共同開発により素材に適した省エネルギー型ハイブリット染色機を導入するなど、積極的に省エネルギーに取り組んでいます。


3つ目は再生可能エネルギーへの切り替えです。

2021年夏より、購入している電力の10%を再生可能エネルギーの太陽光、風力、水力等により発電した電力に切り替えました。将来的には自社に太陽光パネルを設置し、全ての電力を切り替える計画です。


4つ目は地域との交流です。

地域の学校やイベントなどで、「持続可能な社会をともに」との考えでSDGsに関わる紹介を行っています。学校では授業の時間を頂いて、当社の環境への取り組みを通じて、これからの地球環境を守る為に、脱炭素がいかに大切かを生徒たちに説明しています。地域のイベントではエコラップ作りやハンカチ染めなどのワークショップを開き、子供たちに体験を通して環境を守る大切さを伝える活動をしています。大垣市は国際社会の一員として、2050年までに市の二酸化炭素排出量を実質ゼロとする「ゼロカーボンシティおおがき」の実現に向け、市民や事業者等と一体となって取り組むことを宣言しています。


5つ目は、段ボールコンポストです。

2019年より社員食堂で出る生ごみを毎日段ボールコンポストで全て堆肥化しています。それを使用して、敷地内に畑をつくり野菜を育てています。畑の名前は「ツヤキンファーム」といいます。収穫した野菜を社員に配ったり、社員食堂の昼食に使用したり、循環型のサイクルを社内でも実践しています。


これらの取り組みによって、環境配慮型染色整理工場というビジネスモデルの確立を可能にしております。


原田)本当に素晴らしい取り組みですね!企業の見本ですね。ありがとうございました。


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墨 勇志さん(株式会社 艶金 代表取締役社長)



原田)染色する前の生地の格納庫にやってきました。墨社長、驚くほど高いところまで生地が積みあがっていますね!


墨)こちらは染色をするためにお客様から預かった生地を格納する場所です。


原田)こちらの生地は全て使い切るものですか?


墨)大半はこれから染めていくものですが、残念ながら2割~3割はずっと白い反物のままここに置き去りになっています。


原田)その置き去りになっている白い生地がアップサイクルブランド「retricot」の素材として使われるのですね。お客様の企業さんは生地を預けて放置してしまうということですか?

墨)結果的にはそうなりますね。何らかの理由で染めるまでに至らなかった生地などが残っていってしまいます。例えば売れると思って多めに発注したが思うように売れず次の販売まで至らなかったり、保管する場所がなくここに置きざりになったり。

原田)放置された生地、最後はどうなりますか?


墨)最後は持ち主と連絡を取った後、処分業者に持って行ってもらうように依頼されることもありますね。


原田)自分たちの会社から出たゴミだけれど、目の届かないところにある。だから罪の意識が低くなってしまうということでしょうかね。


墨)そういうことになってしまいますね。私たちは染色の会社です。染めることを生業にしていますので、ただ保管してあるだけの白い生地のままここにあることは非常に残念です。


原田)あ!機械が動き出しましたよ!

   どうやって生地を出してくるのですか?この中に人は入れますか?


墨)人は入れないので、機械に番号を入力すると無人で生地を取り出すことができます。生地がたくさんありますので、お客様ごとに場所を登録して管理しないと出す時にわからなくなってしまいます。


原田)倉庫のようになっていますね。


墨)ここにたくさんの染められない生地が残っているように、他の染色会社にも同じようにたくさんの白生地があるはずですので、合わせたらかなりの洋服が作れる生地の量になると思います。


原田)ではアップサイクル・ブランド「retricot」事業は改革ですね!


墨)そうですね。会社としてバイオマスボイラーを導入しこれにより、カーボンニュートラルを達成し、CO₂排出の削減に成功しました。減らしているのに、これらの在庫を焼却処分してしまっては“意味がない”そういった思いも込めて発信していきたいと思います。


原田)焼却処分するとCO2も出る。アパレル自体が変わらないといけない。

   一石を投じる事業ですね。


墨)これらを再利用するとしても本当に付加価値の低いウエスや使い捨ての雑巾にしか使われないので、本当にもったいないですからね。


原田)「もったいない」という気持ちに正直になることが大事ですね。ただ、今までの習慣として廃棄するものという固定観念のままの方も多いのが現実では?


墨)はい。まだまだそういった考えの方も多くいると思います。


原田)「retricot」を作る時は、この中の古い生地からを使うということですね。


墨)そうですね。お客様が持ってきた日付がシールで貼ってあり、その日付を目安に使っていきます。この中には一年くらいずっと置いてあるものもあります。


原田)一番長いので何年前ですか?


墨)一番長いので3年くらい置いてあります。


原田)3年以上前の物は廃棄していたということですね。これからは廃棄ではなく「retricot」で使うということにチェンジですね。


墨)そうですね。特に綿でしたらお米と同じように、綿花の栽培では長い時間と手間、たくさんの水を使用し生地が作られていますので、人間の都合で使用しない!これからは地球が許してくれないですね。




「アップサイクル」インタビュー完成のお披露目イベントに

「retricot /艶金」子池さんもトーク!

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エシカル&サスティナブル・ファッションショー/ トーク@オンライン

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2022年 1月 22日(土)

オンライン配信(ファッションショー/トーク/ 中継)13:00〜16:30

参加:YouTube配信 https://youtu.be/Sj2a3_u_N4M


1/22イベント詳細はこちら!




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nterviewer

原田さとみ

(エシカル・ペネロープ株式会社 代表 / 一般社団法人 日本フェアトレード・フォーラム代表理事 / NPO法人フェアトレード名古屋ネットワーク(FTNN)理事 / 一般社団法人 日本エシカル推進協議会理事 / JICA中部オフィシャルサポーター)

”思いやり”のエシカル理念・フェアトレード普及推進イベント、フェアトレード&エシカル・ファッションショーの企画運営。 フェアトレード商品やエシカル消費・エシカルライフの推進事業を行う。2015年名古屋市をフェアトレードタウン認定都市とする。


movie

フジオカヒロタカ(藤が丘デザイン 代表)

映画・劇作グループ「garret」を主宰する映画監督。代表作は「十等星たち」。

ソーシャルなニュースを発信するメディア「Media for Society」を運営。


writer

梅澤ルミ子 (結日代表 / NPO法人フェアトレード名古屋ネットワーク(FTNN)理事)

エステティシャンとしての経験を積み、2018年『結日』起業。生産環境、製造環境、使い終わったあとまでを考えた石鹸等の日常生活に馴染みやすい化粧品・洗剤等の商品展開をスタート。主にアジアを中心に生産者に寄り添った現地の素材を活かし原料化し、美容界にもサスティナブルな商品の導入を目指している。

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